事業承継と個人の相続どちらを優先すべきか
事業承継(親族内承継)対策と個人の相続対策どちらを優先して行えば良いでしょうか、という質問がくることがあります。
まずは事業承継(親族内承継)から考えるべきという専門家がいますが、果たしてその指針は正しいのでしょうか。答えはバツ、誤りです。
中小企業のオーナー社長の相続には経営を引き継ぐという側面と個人の財産を引き継ぐという側面があります。事業承継と個人の相続という両面があるわけです。
親族内承継では、多くの場合が同族内での承継、とりわけ家族内での承継となります。長男が次期社長だとか、長女は嫁いだので経営とは関係ないとか、巷でよく聞くような話ですね。
この場合、事業承継(親族内承継)とオーナー社長個人の相続とはどちらが優先ということではなく、同時に関連付けてトータルで考えていかなければなりません。
オーナー社長の資産は、自社株、事業用資産、事業用不動産等が大半を占め、それに比べ個人名義の資産は少ないということが多いものです。この大半を占めるであろう自社株や事業用資産を後継者に全て相続させた場合、非後継者の遺産取得分はどれだけのものになるでしょうか。
場合によっては、法定相続分どころか、遺留分にも満たないということにもなりかねません。そうなると遺留分を侵害された非後継者は遺留分減殺請求を行う可能性が出てきます。
遺留分減殺請求に対応するだけの現金を後継者が持っていれば、現金で払って終わることも可能でしょうが、なかなかそうもいかず自社株の分散を招いたりして経営に支障をきたす、ということになりかねません。協議が上手くいかず調停や審判になれば尚更です。
親族内承継では、自社株の生前贈与と相続、特別受益の持ち戻し、遺留分減殺請求といった問題があります。これをどのようにクリアするかがポイントとなります。
親族内承継でまず留意しなければならないのは、事業承継も個人の相続もトータルで考え準備すること、とりわけ後継者と非後継者の相続分のバランスに配慮することです。
そのための手段として、遺言の活用、生命保険の活用、そして経営承継円滑化法による遺留分に関する民法の特例の活用等があるので、上手く組み合わせて円満・円滑な承継ができるように準備しましょう。
決して、切り離して考えてはいけません。
もちろん、事業承継計画も必要です、お忘れなく。
☆執筆者:中島浩希(CFP、相続士)